映画鑑賞会

サークルでやっている映画鑑賞会の感想アーカイブです。

マルクス・エンゲルス

ロードジャスティス C

ラウル・ペック監督は黒人差別がテーマのドキュメンタリー「私はあなたの二グロではない」を以前観たが、本作もブルジョワvs.プロレタリアートという現代にも続く二項対立において虐げられた者の肩を持つような姿勢では共通している。しかし史実を基にした伝記ものとして主人公のマルクスエンゲルスを極端に美化してはおらず、その後の共産主義の敗北までは描かなくとも彼らの思想自体を賛美する作品ではない。必ずしも労働者階級の悲惨さへの義憤ではなく、エンゲルスの父親に対する葛藤やマルクスの哲学者としての批判精神(あるいはイキり)が思想の原点であるようにも読めるのは面白かった。マルクス以前の社会主義運動は労働者への友愛が軸であり、理念が曖昧であっても単純な二項対立で無知な民衆にも理解しやすいものだったが、マルクスは徹底的な批判によって革命の本質的な理論を確立しようとする。だがそうした姿勢は当然ながら敵を生んでもしまう。革命をやってもその後のビジョンがなければ意味がない。しかし大衆を惹き付けられなければそもそも運動として成立しないし、大筋の方向性が同じでも些細な理念の違いを追求してしまえば統一は難しくなる。これはまさに粛清や内ゲバを繰り返してきたマルクス以後の「革新派」が抱えているジレンマそのものである。そうしてなかなか社会から理解されないマルクスと腹蔵なく語り合えて、とにかく金がない(←重要)という問題を解決できるエンゲルスとの共依存的な関係性も見どころだった。作品全体としては、歴史的ものとしてある程度誠実さはあり、ちゃんと哲学をやろうとする挑戦的な姿勢自体は評価したいものの、一貫したメッセージ性が希薄なのもあって議論がかなり難解に感じるのと、各シーンの必然性が薄く映画としてのカタルシスがあまりないのは今一つだったと思う。