映画鑑賞会

サークルでやっている映画鑑賞会の感想アーカイブです。

スパイダーマン:スパイダーバース

ロードジャスティス A

スパイダーマンシリーズも作品が多いし全然追えていないが、それでもシリーズに対する作り手側の半端じゃない熱量がひしひしと伝わってくる作品だった。ディズニー・ピクサー系の3DCGともやや違う、アメコミの紙面をそのままアニメにしたかのような独特の画風にはかなり驚かされた。音楽とも合ったリズミカルでポップな演出やアクションシーンの迫力も見応えたっぷりで、アニメーションとして日本の作品とはまた違った一到達点といえるほどのレベルまで上り得ている作品だと思う。ストーリーの大筋は家族愛を軸に少年の成長を描く、概ねイメージ通りのスパイダーマンではある。ただ、映画を何作か観ているだけの身からすると時折挟まれるコントのような軽いノリは少し意外で、アニメの表現とも噛み合っていた気がする。そもそも作品を越境して何人ものスパイダーマンが共闘するという、オタクが考えた二次創作のような世界観=スパイダーバースというコンセプト自体がもうエンタメに振り切っているので特に深読みして言うこともないが、ひたすら「楽しい!」が持続するいい映像体験だった。放射性のクモが便利すぎる。家族2人だけを異次元から呼ぶつもりが代わりにスパイダーマンが5人も来てしまい、生身でスパイダーマンと1on1ができるフィジカルがありながら最後は惜敗する悪玉のキングピンには同情を禁じ得ない。

ニンチー 7点/10 物語2、主題1、演出1、映像2、音楽1

スパイダーマンの持つ普遍的な物語性を現代のグローバリズムに適合させて見事に一つのティーンエイジャーの成長譚に仕上げている。 スパイダーマンは原作からすでに超人的な力を持つスーパーヒーローではなくややシニカルながら自らの力と責任の重さに悩む青少年の話であったが、この映画によって現代のアメリカにおいて黒人でも女性でも(白黒でも美少女でも豚でも)スパイダーマンになりうることを示している。 叔父の死をイニシエーションとして「大いなる力には大いなる責任が伴う」という言葉を携えて戦ったピーター・パーカーと同じように、ヒスパニック系の少年マイルズは信愛していた叔父の死を乗り越えて、仲間や家族のために戦う。 形を変え時代を越えて語り継がれていく神話のように、この映画には子供が大人になる普遍的な成長の過程が詰まっている。

アニメーションのカメラワークやモーションも説得力があり、本作固有の特色が存分に発揮されていた。 ポップなアメコミ的表現が多分に含まれていて見づらい画面は一切なかったし、BGMも細かく心情に合わせて変化していて分かりやすさという点では一番だった。 商業的な作品でありながらノリは完全に同人作品そのもので世界観を破壊しかねないギャグも含まれているが、スパイダーマンへの愛にあふれていてなんだかほほえましかった。 東方や二次創作のような軽さとごった煮感がありつつもスパイダーマンの物語性をきちんと詰め込んだ点を評価したい。