映画鑑賞会

サークルでやっている映画鑑賞会の感想アーカイブです。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

ロードジャスティス A

全体を通して構成にあまり一貫した意図を感じないというか、結局これってどういう話?というのが観終わってすぐの率直な感想だった。しかし、恐らくそれは映画が映画であるということ、すなわち映画が意図的に構成されるシーンの集合で観客にどこで共感させどんなメッセージを伝えるのか、という制作側の抱える恣意性に対してむしろタランティーノ監督が極めて意識的であるからだと思う。本作のタイトルからして「古き良きハリウッド」を懐古する映画としては、例えば最近観た作品でいうとイーストウッドがコテコテの西部劇の外枠を流用することでフィクションがフィクションであることを印象づけたのとは正反対に、物語として分かりやすく一貫性が明確な構造をあえて避けることでそれをやっているような気がする。タランティーノは相当なシネフィルらしいが、フィクションのお約束を愛しつつも同時にメタフィクション的な視点を持っているオタクがつくった映画という印象は多分にあった。引用たっぷりなのにもこの時代の作品に対する愛情と知識の豊富さを感じるし、フィクションとノンフィクションの境界を曖昧にしようとする狙いは随所に見受けられる。余談だが、これと似た印象を持ったのが藤本タツキの漫画を読んだときなのでやはりタランティーノの影響は大きいんだなと感じた。本作における「古き良きハリウッド」とは、古色蒼然とした勧善懲悪の西部劇が盛んに制作された時代であり、リックとクリフの青春(?)でもある。しかし時代は変わり、ヒッピー文化やマカロニウエスタンが全盛となり勧善懲悪の単純な人間観で社会を語れる時代ではもはやなくなった。リックもイメージを覆すような悪役で堂に入った演技を見せることで時代に適応してゆき、クリフとの関係も終わる。それでも最後はご都合主義の歴史改変で物語が終わるのは、まさにそれが「古き良きハリウッド」の最期の輝きであるかのようである。本作はとにかく個々のシーンの出来が素晴らしいが、このあたりの青春の終わりともいうべきノスタルジックな雰囲気は特に好き。あとはヘラヘラ笑いながら自分の出演シーンを観ているリックたちと、TVの前に張り付いて真剣にドラマを観ているヒッピーたちはあまりに対照的で、「ハリウッド映画が殺人を流布している」という話も含めてフィクションの作り手と受け手の間の非対称性が鮮明に描かれているのも面白い。これもタランティーノ監督の映画オタク的な視点が生きていると思う。文化の違いから昔の映画の引用や音楽など当時のアメリカ文化のディテールまでは理解が及ばないところがあるのはまあ仕方がない。

ニンチー 6点/10 物語0、主題1、演出1、映像2、音楽2

まるでドキュメンタリーのような一貫した物語のない映画だった。 一応1969年に起きたシャロンテート事件を題材としてはいるが、架空の人物であるリックとクリフの二人を中心とした1960年代アメリカの大量生産、大量消費社会とその反動として現れたヒッピー文化の渦巻くハリウッドを描いている。 全体的に作品を貫く主題が見当たらず、どの観点から見ればいいのか分からず非常に困った。 個人的には物語のきっちりした作品が好きなのでこの映画は興味をそそられる対象ではなかったが、レオナルドディカプリオとブラッドピットの渋いおっさんコンビは見ていてかっこよかったし、当時の文化や技術力の反映されたテンポのいい映像は見ていて飽きなかった。 自分の思った演技が出来ず俳優としての将来に不安を感じるリックや俳優としての成功を諦めてリックのお付きとしてトレーラーハウスで暮らすクリフのそれぞれの感情は良く理解できるし、彼らの友情も素直に心にしみた。 現実とは異なりラストはクリフが闖入者を撃退するハッピーエンドで終わるが、そういった現実改変もフィクションとノンフィクションの間にあるこの映画の魅力だと思う。 私は創作とは作者の感じる現実性を創作物の中で表現することだと思っているが、この作品はタランティーノ監督の現実性、創作観の詰まった映画なのかなと思った。