映画鑑賞会

サークルでやっている映画鑑賞会の感想アーカイブです。

ジャンヌ・ダルク

ロードジャスティス A

ジャンヌ・ダルクを抑圧的な中世社会に殺された悲劇のヒロインとして描くこともできただろうが、リュック・ベッソン監督の解釈は一人の人間としてリアリティをもったキャラクター像を真摯に描くことに成功しているように思える。前半の神に使命を与えられたと信じて疑わないジャンヌは迫力がすごくてホラーに片足を突っ込んでいたし、殉教者としてでなく最後は自らの罪を自覚して火刑にかけられる後半の展開にも説得力があった。人々は教会の教えや英雄譚、神のお告げのような物語を欲する。そうしなければ自分の生き方にさえ迷って決められないからである。処女性や単なる油などに特殊な意味を見出す迷信深い中世の価値観を笑うこともできるが、本作はそのように多面的で不確実な存在として人間を捉えているといえる。シャルル7世やオルレアンで戦った兵士たちはジャンヌの盲信なしには立ち上がれなかったし、ジャンヌを裁こうとしたカトリックの司教たちも彼女を異端とすることに確信を持ってはいなかった。そしてジャンヌ自身も、姉を殺されたことへの復讐に大義名分をつけるために「神」を騙ったにすぎず、戦いの高揚から信仰をおろそかにしていたという(あくまで可能性の域を出ない)「罪」を自覚するという展開は、まさにキャラクターの物語からの解放を意味している。そうした本作の姿勢には感銘を受けた。「ジャンヌの良心」ことフードのおっさんはジャンヌの分身として悔悟を促す役と捉えることもできるが、「(真の姿の)神」だと考えてキリスト教の信仰の本質について考察することもできそうである。監督の真摯さは中世ヨーロッパの世界観を表現する建物や人物の服装などのディテールにも行き届いていて、歴史的正確さを判断するだけの知識は正直ないけどかなり念入りに考証がなされているように感じた。甲冑のデザインがめちゃくちゃカッコいい。戦闘シーンの泥臭さというかなし崩し的に人々の生死が決定されてゆく感じもテーマと合っていて良かった。無暗に突撃し続けるジャンヌにやれやれ……とついていくジル・ド・レやラ・イル、真っ当に冷静な判断をしようとしているのに制止役に回らされるデュノワ伯のくだりはアニメみたいな面白さではあるが、まあ史実自体がアニメ(奇跡)なので仕方がない。難癖をつけるとしたら後半では前半とは対照的に観念的な話で終わるので映画っぽいカタルシスがあまりない、という点くらい。歴史ものとして傑作だと思う。

ニンチー 7点/10 物語1、主題2、演出2、映像1、音楽1

よく知られたジャンヌダルクの英雄譚が、現代の視点から見ても耐えうる形で内省的物語として見事に再現されている。 映画はシャルル七世の戴冠を境に装いを異にし、前半では神の啓示に従い不当に貶められた祖国フランスを救うために無謀にも戦場に飛び込むジャンヌの狂気が描かれる一方、後半ではイギリス軍に囚われた牢の中で多分に神学的なジャンヌの自問自答が描かれる。 全体的にフランスの村社会での土着的なキリスト教の様子や戦闘シーンの泥臭さなど中世の世界観を見れたのは面白かった。 不思議な風や天からの声など曖昧な神の啓示を盲信しことあるごとに告解を求めるジャンヌに対して、自らの社会的地位に悩むシャルル七世や戦場という圧倒的な現実に生きるジルドレやライル、神というより教会の権威と法に従うピエールコーションなど中世の世俗的な世界で生きる人々の様子が対比的で面白い。 ジャンヌの狂気的な信仰心は現代を生きる我々には(当時の人ですら)理解しがたいものがあるが、後半でその信仰心がいったんは打ち砕かれ、神との対話によって回復していくという展開によって現代人にも受け入れやすい話になっていたと思う。 ただ、序盤に姉を殺されたシーンが入ることでジャンヌの英雄的な理想が個人的な復讐に矮小化されている気がして個人的には不服だった。 終盤牢の中でジャンヌが「戦場では人々が大義をもって戦っていると思っていた」と発言するシーンがあるが、これは神に禁じられた殺人を正当化するためには神の使命や大義が必要であるはずだが自身の信じていた大義ですら個人的な復讐が根底にあることを認めたことを示唆している。 監督はそれを意図して、つまり、ジャンヌの持つ大義と個人的な体験を結び付ける形でジャンヌの内面を描いていると思われるが、脚色としてありきたりな設定に感じなくはない。 戦闘描写含め全体的に中世の雰囲気がよく再現されていたように感じるが、本来歴史には表れないジャンヌダルクの内面を描いている点で歴史を題材にした創作として楽しむべきであると思う。 「ジョーカー」のように原作(史実)を題材にして、人間性に切り込むための映画として見るならば良作であるように思う。

よいこ 4点/10

戦闘シーンはジャンヌの狂気がよく表現されていた。 ジャンヌは最後まで信仰を捨てず、自分の犯した罪(兵士の死)に対して告解を求める。 ジャンヌの鬼気迫る迫力ある演技がすばらしい。

ザリガニ